1. 575のリズムを大切に
●原句 狭き門断然赤門理科三類
句の意味はよくわかります。「断然」という副詞もよく利いています。しかし、ダンゼンアカモンは中八、リカサンルイは下六で、共に字余り。リズムを整えなくてはなりません。「理科三類」が「理三」で通じるなら、
添削例 赤門の理三は特に狭き門
「赤門」と「理科三類」をそのまま活かすのなら、
添削例 赤門の理科三類の狭きこと
●原句 パソコンに老いの頭脳が右往左往
ウオウサオウは下六字余りです
添削例 パソコンに右往左往の老いの脳
2. 川柳では「鈎括弧」は用いません
短歌作品には、最近、鈎括弧をつけたものがよく見られるようになりましたが、川柳や俳句の世界では用いないのが原則とされています。「?」や「!」などの記号についても同じです。
●原句① 「頼もう」の気骨で武家の門開く
●原句② 「お大事に」帰る時には患者言い
①は、観光地の武家屋敷を詠んだものでしょうか。
②には「老医老患デス」と添え書きがありました。
添削例① 頼もうと呼ばわり武家屋敷の門
添削例②
お大事になどと老医がいたわられ
老患者逆に老医の身を案じ
3. 誤字の一例
●原句A 餅食べて詰めるなと気付かわれ

」は「喉」ですね。「気付く」は、気がつくこと。「きづかう」は、心配すること、案ずることですから、「気遣われ」としなくてはなりません。

添削例 餅食えば喉詰めるなと気遣われ
4. 意味が不鮮明な句
省略、比喩、措辞などは、川柳を作る上で欠かせない工夫ですが、その結果できあがった作品が、第三者である読者にすんなりと伝わっていかないのでは、作者の独善に終わってしまいます。私には伝わりにくかった句を少しご紹介します。
●原句(A) 待ち受けの二歳の孫が卒業す
●原句(C) 犯人に丸付け向かう古本屋
●原句(E) 旧門に並ぶ表札婿の意地
●原句(B) 入門書口は一流腕二流
●原句(D) 閻魔様門前払いがんばるぞ
(A)「待ち受け」は、ケータイなどの待ち受け画面のことですか? (B)「入門書」は、それを読んで勉強を始めたばかりの初心者のこと? (C)犯人の名前にこっそりと丸をつけて古本屋に売りに行くという句ですか? (D)「門前払い」をくらったわけは? (E)「旧門」とは、お嫁さんの実家の古い門? 以上、見当違いでしたらご免なさい。
飛躍と省略がきつ過ぎると意味が伝わりにくくなります。


俊秀流川柳作句のポイント[第13回分]

1. 中八の字余り

中七のところが一字多い「中八字余り」の句が、十数句に上りました。中には三句中二句が中八という方もおられました。字余りは、リズムの切れ味を著しく損ねますので絶対におやめください。全部の添削はご披露できませんので、その一部をご参考までに。

●原句 ごめんなさい昨日の話は酒のせい
●原句 上戸しかわからぬ甘露の愉しみは
●原句 豊満な胸見て欲出す男なり
●原句 嫌々で行ったが今では首ったけ
●原句 角立てて今夜も突進赤のれん
添削例 昨晩の話は許せ酒のせい
添削例 上戸しかわからぬ甘露酒の風味
添削例 豊満な胸が男の欲を呼び
添削例 嫌々で嫁ぎ今では首ったけ
添削例 今宵また一目散に赤のれん
2. し止め

「○○する」という動詞の連用形「○○し」を下五に据えますと、「し止め」と指摘されて、今の川柳界では敬遠されます。このことについてコンパクトに解説した資料がありますので、ご希望の方は川柳係までご連絡ください。

●原句 TPP訳もわからず反対し
●原句 酒焼けを歌いすぎだと言い訳し
添削例 TPP訳もわからず異を唱え
添削例 酒焼けを歌いすぎだと言い逃れ
3. 意味がよくつかめない句

課題「酒」から二つの例を挙げます。

●原句A ちょっとだけできもせんのに毎度言う
●原句B 入院し酒注ぐ夢に外泊す

Aは、ちょっとだけと言いながらいつも深酒をしてしまうということなのか? Bは、酒を注ぐ夢を見たので病院を抜け出して外泊して一杯やったということなのか? 作者ご自身は句の意味は十分おわかりなのでしょうが、第三者である読者には伝わってきません。作者の作句意図と違っては失礼になりますので軽々しく改作はできませんが、たとえばこんな句はいかがでしょう。

A添削例 妻に手を合わせ一本追加する
B添削例 入院の床酒盛りの夢をみる
4. 漢字に振るルビ

この句には「将来」に「さき」とルビが振ってありました。お気持ちはわかりますが、この読みは無理。よく見かけるルビに、「姑」(はは)、「夫」(つま)、「瞬間」(とき)などがあります。漢字の表意性に甘えないようにしてください。

●原句 追い込みに祈るしかない孫の将来

川柳の心得

川柳を、最も短いことばで定義づければ「人間を575のリズムで詠む文芸」ということになります。形は、俳句と同じ575です。そしてこの575は、日本人の体にもともとしみついているリズムですから、誰でも自然に乗ることができます。

「人間を詠む」と申しました。ここでいう「人間」とは、人間そのもの、人間の営み、人間の形成する社会などを指します。「人間の一切合切」と申し上げるほうがいいかもしれません。人間の強さ弱さ、賢さ愚かさ、正しさ狡さ、温かさ冷たさ、楽しさ悲しさ その他すべてが川柳の素材となります。
「川柳」というと、風刺、皮肉、笑い、ジョークなどを思われる方が多いでしょう。これらは確かに川柳の大切な要素ではありますが、そればかりにこだわらないでください。「笑わせてやろう」「皮肉ってやろう」と構えないでいただきたいのです。見たまま感じたまま思ったままを、口語体でさらっと詠んでくださるようにお願いしておきます。

575のリズム以上に大切なことが二つあります。一つは、人間の尊厳や生命を軽視したり、社会的弱者を揶揄したり、性を下俗に表現することのないように、ということです。二つめは、ダジャレを川柳に持ち込まないでくださいということです。「この鮎は養殖ですか和食です」「IT化いいえわが家は愛低下」などは、ことばの引っかけとしてはおもしろいかもしれませんが、ただそれだけのこと。文芸としての価値はゼロとお考えになってください。

川柳を作る上での心得は他にもいろいろありますが、毎月その都度具体的に申し上げていきましょう。私は、川柳を「納得と共感の一行詩」などとも説明しております。何を詠んだ句なのか、何を言おうとしている575なのかが、一読明快でありますように。

川柳の良さと楽しさを、より十分おわかりいただけるよう努めさせていただきます。

大木 俊秀
大木 俊秀(おおき しゅんしゅう)プロフィール

NHK学園川柳講座の編集主幹。昭和5年横浜生まれ。
全日本川柳協会理事。
NHKに入社後、アナウンサー、経営職を経てNHK学園に川柳講座を開設。
"わかる川柳""感じられる川柳""リズム川柳"を唱えて新聞、雑誌、 ラジオなどで選評執筆中。著書に『俊秀流川柳入門』など。